乃木坂46の生田絵梨花 「天性のヒロイン」大作舞台へ
乃木坂46のメンバーとして活躍するかたわら、女優としても着実にステップアップしている生田絵梨花。2017年は1~3月に上演された『ロミオ&ジュリエット』に続き、5月25日に開幕した『レ・ミゼラブル』(以下レミゼ)と、大型ミュージカルへの出演が相次いでいる。
『レミゼ』は、小学生の時以来何度も観劇し、舞台女優を目指すきっかけにもなった作品。ミュージカル俳優でも難関といわれるオーディションに合格し、主人公ジャン・バルジャンの養子でヒロイン的役どころであるコゼット役を射止めた。本格化する舞台女優としての日々や乃木坂46との兼ね合いなど、率直な思いを聞いた。
「私はコゼット役ですけど、冒頭の部分では、アンサンブルとして民衆役でも出るんですよ。農婦だったり娼婦だったり、なかなか普段やらないような役柄をやるのは、新鮮で楽しいです。
プリンシパル(主役級)のキャストもみんなそこに出るので、本当に全員で作り上げてる一体感を、すごく稽古場で感じています。
歌稽古も全員でやるんです。1人ずつがだんだんクレッシェンドすることで音楽を前に押し進めていき、それが重なってものすごい大音量になる。あの歌声の迫力を出すにはこういう準備段階があるんだっていうのを、改めて学ぶ思いがします。やはり『レミゼ』の一番の魅力は、歌声が重なった時の厚みや大迫力にあると思うので。
コゼットという女性に関しては修道女のおとなしいイメージが強かったんですけど、実際演じてみると、思った以上に積極的な女性かもしれない。過去に抑えられていた分、いろんな世界を知りたいという好奇心が強くて。(役に)受かってから、自分の中の概念が変わりました。
ただ、自分にとって何度も観劇したなじみのある作品だけにその場、その瞬間に新しく発見する、感じる、といったことが難しくて。コゼットとしては全部が初めて触れるものなのに、私にとっては歌詞も場面も頭の中にもう入ってるので、彼女のささいな驚きや発見に毎回新鮮さを持たせるのが課題です。
演出家の方からは『表情がもっといろいろ欲しい』って言われました。ただの笑顔とか、ただ困ってるとかじゃない微妙なニュアンスを探していかなきゃですね」
制作発表の場では、コゼットのソロ歌唱も堂々披露。緊張は伝わってきたものの、その舞台度胸はかなりのものだ。
「いえいえいえ!私は本当に緊張しぃで、ともするとその場にうずくまりそうになる。いつも周りの人に『大丈夫、大丈夫!』って言ってもらって、何とか堂々としてるフリをしてます(笑)。
そう見えないってよく言われるんですけど、それは多分、ピアノのコンクールや試験を小さい頃から経験してるからじゃないかと。あれはもう、本当に寿命が縮まるくらい緊張するので!(笑)ミュージカルや乃木坂46のお客さんたちと違って、見てる人たちは基本『審査』の目ですし。そういう場でメンタルを鍛えられたのは大きいかもしれません」
パート外の歌も趣味で練習
ファンの中には、生田が出ていなかったら帝国劇場に足を運ぶことなど一生ないかも、という層も多いことだろう。
「『今回初めてミュージカルのチケットを取ったよ』とか、私のお芝居を見たことで『舞台ファンになった。他の作品も見に行ってみる』という声は実際よく聞こえてきます。そういう、今まで違う畑にいた人を引っ張ってくることができるっていうのは、乃木坂46の活動をしてるからこそですよね。やっぱり自分が好きなものをよりたくさんの人に理解して、ハマってもらえるのはうれしいです」
まさに舞台に魅せられてしまったように、黒く大きな目を輝かせる。現在はとりわけ声楽に力を入れてレッスンに励んでいるとか。若くしてストイックに芸を磨く姿には頭が下がるばかり。
「舞台出演が続いて歌を真剣にやっていきたいなという思いが膨らんできました。これといった特別な訓練はしてませんが、毎日必ず歌うようにはしてます。前まではただ単純に声が口から出ればそれが歌だと思ってたけど、今は歌い方によって(声を)当てる場所が違ったりとか、この音色を出すためにはココを意識するとか、奥深さを知るにつれて、筋トレみたいな感覚(笑)。カラオケの使い方も変わったんですよ。いきなり歌うんじゃなくまずは発声をしてから、エコーは全部ゼロにして、みたいな。友達と行く時でも、家でちょっと慣らしてから行きます(笑)。
歌稽古は全員でやってるので、違う役……エポニーヌやファンティーヌ(※『レミゼ』の登場人物)の歌も歌ったりとかして。完全に趣味の範疇なんですけど。その方たちのレッスンを見てる時間、自分の役じゃないけどダメ出しとかも楽譜に書き込んだりしてます(笑)。
今の自分の声は高めですけど、どうやったら違う音色を出せるかなって、考えるのが楽しい。ちゃんと勉強していったら、歌い方の幅も増えていくのかなぁって。できるかどうかは別として、そんな風に思ってます」
エリートと呼ばれて
物心ついた時には歌が大好きで舞台女優の道を決意し、子役の年齢から舞台に出演。さらに乃木坂46でデビューしてからも安定した人気を獲得、時にはセンターポジションも務める。上品さや聡明さ、夢へ向かう真っ直ぐな熱意や言動も併せて、その存在は文句なしに「エリート」と称されるが……。
「いえいえ!プロフィールには書いてないところで、いろいろオーディション落ちまくってますから。小学生の頃から結構オーディションを受けてたんですけど、あんまり前に出られる性格ではなかったので、緊張に負けたり、周りの子を見て『ああ自分なんて……』となっちゃったり。全然ダメダメでした。
乃木坂46に入ったのはアイドルになりたかったからというより、ステージに立つという点で舞台女優と共通点があるかな?というのが大きかったのですが、想像していたものと違うことも多くて、悩んだ時期もありました。でも、いろいろな経験を通して、表現すること自体が好きになったり、自分を出せるようになったりと、だんだん変えてもらって。もし乃木坂46に入ってなかったら『ロミジュリ』も『レミゼ』も、昔みたいに落ちてたかもしれません」
以前、同じメンバーの高山一実は「いくちゃんはバラエティー番組に出てもヒロイン」と評した。そんな「天性のヒロイン」生田に、コゼットやジュリエットの役はぴったりだろう。しかし今後女優として本格的にやっていく上では、その可憐さ、清純さは打破すべき壁になっていくのかもしれない。
「今後どこかで、『えっ、こういう役もやるの?』とか『こんな面もあったんだ!』というような役もやってみたいです。そのために今できることは…それこそ『レミゼ』には多彩なキャラクターと多様なキャストがいるので、まずは見て勉強して。
どうしても自分の実体験ベースでは限界があるじゃないですか。そこは、人と話すことで吸収したり補っていくしかないのかな。そういう、人とのコミュニケーションをまずは大事にすることが、役の幅を広げるためのヒントかなと考えてます。あとはまだ分からない(笑)。いざそういう巡り合わせが来た時、もがくことになるんでしょうね。でも……うん。そんな未来を思い描くと、楽しみな気持ちは大きいです」
夢を追うひたむきな姿は、ただ幸せを待っているお姫様ではなく、戦うお姫様のイメージだ。あまりに凛として強いので思わず聞きたくなった。「もうレッスンやだ!」という日はないんですか?と。
「ありますよ~。起き上がりたくなーい!みたいな時だって。でもしばらくやってると、それにも飽きちゃうんですよね(笑)。
まだ女優の世界に足を踏み入れたばかりなので、これが続いていくかどうかは自分の力とやる気にかかっていると思います。私はやっぱり舞台に主軸を置いた女優になるのが夢なので、そのための力をもっとつけていきたいです」
2月末日、『レ・ミゼラブル』日本初演30周年記念公演の制作発表会見が帝国劇場にて行われた。これにはマスコミに加え、一般の観覧客も招待。総勢73名にものぼる出演者が登場し、あいさつの後、『民衆の歌』など劇中の歌曲の一部を披露。生田は独唱曲『プリュメ街』のほか、内藤大希(マリウス役)、唯月ふうか(エポニーヌ役)と共に『心は愛にあふれて』を歌唱し、喝采を集めた。また、初代エポニーヌ役で知られる島田歌穂も駆けつけたり、長年にわたって出演するベテラン俳優らが口々に意欲を語ったりと、この作品がいかに特別であるかを思わせる圧巻の会見となった。5~7月に帝国劇場、8月に福岡・博多座、9月に大阪・フェスティバルホール、9~10月に名古屋・中日劇場と全国を巡業する。
(ライター 上甲薫)
[日経エンタテインメント! 2017年6月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。